第10章 god
「……理仁の差し伸べてくれた手が、どうしようもなく嬉しかっただけだ」
それぞれの想いが交差する。山姥切は彰人の手を取ることもなく、佐伯へと突き付けていた刃を引いて刀を鞘に納めた。互いの目を見ればわかる。今この瞬間、何を考えているのかくらい。
「なら決まりじゃね? そうだろ、佐伯」
「わかりました。門の方でゲートを作ってきます、お二人はご準備を」
佐伯がその場を去ると、残されたのは山姥切と彰人に長谷部のみだった。
彰人は山姥切へと近付くと、無邪気に笑いかけた。理仁自身表情の変化が少ないせいか、彰人の表情の豊かさに少し驚いていた。
「お互い苦労するよなぁ、しょうがない奴を友人や仲間に持つと。でもさ、理仁って容量もいいしあんまり人に頼らねぇからこっちが気付いてやるしかないんだ。でも気付いた時には、何もかも終わってたりするからむかつくよな」
「あんたは理仁の何なんだ」
「一番の親友だよ。あいつはな……ちっせぇ時に大人が嫌いで何もかも大嫌いで仕方なかった俺を、救い出してくれたんだ。そこはそんなに楽しい場所なのかってさ……喧嘩してる場にわざわざ身を晒して言うんだぜ? 馬鹿だよなぁ」
「……」
ふと、山姥切の表情が変わる。その変化に気付いた彰人が「どうかしたか?」と声をかけた途端、山姥切は勢いよく門の方へと走り出した。
「お、おい! どうした!?」
ぎゅっと柄を握り締め、切羽詰まったような表情を浮かべ山姥切は木々を掻き分け門の方へ走り抜けていく。心臓がどくんどくんとうるさい。