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刀剣乱舞 盤上のクロッカス

第10章 god



「理仁はな、昔から他人のためには何にもしねぇ奴だ。それは俺に対してもな。腹立つ! けどそこがいい。嘘がなくて、ずっといい」

「……」

「だからお前もさ、ひねくれてっけどあいつに着いて行こうと思ったんじゃねぇの?」

「俺は……」


 山姥切は視線を彷徨わせ、何処か気まずそうに目を逸らした。彰人の言葉は、意外にもすんなり山姥切の中へ溶けていく。理仁の差し伸べてくれた手の温かさ、誇らしくも逞しい背中。常に刀剣達の前を歩き、自ら果敢に戦へ飛び込む恐れのなさ。

 気付けばいつも、理仁の背が目の前にあった。あの背中を無意識に追いかけて、追いかけて。手を伸ばすけれど、何処か掴めない。理仁の語ってくれることに、耳を傾け一つ一つ彼を知る度に思い知らされる。――ああ結局俺は、何もあいつのことを知らないんだ。


「俺は、何も知らない。いや、何一つ知らないわけではないが……俺はいつもあいつの背ばかり見てあいつの本心を、まるで理解することは出来なかった。あいつの前に立って戦うべき存在の俺達は、結局非力で脆弱で俺達のように怪我をしても手入れなんかで直すことが出来ない男に守られてきたんだ。弱かったのは、あいつじゃない。俺達なんだと……知った」


 現にこうして、理仁がいないだけでこの本丸は正しく起動しない。


「俺はただ……あいつが望んでくれるなら、何にだってなりたいだけだ。刀になろう、盾になろう、あいつの……あいつの一歩後ろじゃなくて。堂々と隣で胸を張って、理仁と共に戦おうって決めただけだ。そこに大きな理由なんかない、まぁもしあるとすれば……」


 山姥切の表情を見た彼らは同時に驚愕した。ふわりと花のように笑んだ山姥切は、まるで太陽のように眩しく見えた。

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