第9章 hell
ゆっくりと、足音が理仁の目の前へと近付いてきた。止まったかと思えば、銃を握っている理仁の手を、思い切り踏みつけた。
「ああ――ッ!!」
「あははっ、無様だな宝条理仁君。私達はね……君が我々に復讐したがっていたのを知っていた。だから利用しようと決めたんだ。君と山姥切が闇落ちすれば、完璧な人工歴史修正者が完成する! さあ、私達の手に落ちてもらおうか理仁君っ!」
男がもう一度と、足を上げて理仁の手を踏みつけた。
「……ッ!!」
最早声さえ上げることが出来なかった。理仁はぎゅっと唇を噛みしめて、痛みと大量の出血で視界が霞む中、理仁は不意に山姥切の言葉を思い出していた。
――行くな。
――なら、もっともっと最後まで頼れ!
――俺はもっと強くなる!!
――だからあんたは、俺の後ろでいつも通りどっしりと構えていてくれ。堂々と、俺達のことを……見ていてくれ。それでいい。
理仁の視界は、もっと違うもので霞んでいった。頬を伝う滴が何なのか、彼は知っている。
「ああくそ……なんでこんな時に、お前のことを思い出すんだろうな……国広……っ」
最後の力を振り絞るように、理仁はもう片方の手で銃を引っ掴み男の足を撃ち抜いた。死ねない、まだ……死ねない。そんな想いが理仁の中へと込み上げてくる。既に身体は動けない、立ち上がることも出来ない。というのに……。
「……っ! 何してくれてんだこの餓鬼っ!!!」
「……ッ」
足に弾丸を受け、血を流す男は怒りに任せて理仁の身体を思い切り蹴り飛ばした。抵抗する気力なんて残っているはずもない。激しく身を床に打ち付け、銃も手から離れていく。
「国広……」
目の前は霞んで、歪んでいく。
「助けてくれって言ったら……」
瞼が重い。ゆっくりと、理仁は瞼を閉じた。
「お前は……来て、くれるのかな……」