第9章 hell
「貴方が俺の元を去ってから、俺は幾度も貴方の死の理由を探し回った。そして俺は、貴方と同じ審神者になることでその真実を知れると確信していた。けど……けどさ、これってどういうことなんだ!!」
カプセルの目の前まで来ると、理仁は感情をぶつけるように分厚いガラスを思い切り叩いた。何度も、何度も、手が痛くなることなどお構いなしに。何度も叩き続けた。
「俺は、両親を失って……姉さんと二人だけの家族になって。それでも幸せだった、貴方が俺を……惜しみなく愛してくれた。傍に、いてくれた……それだけでよかったんだ。他には何もいらなかったんだ!!」
分厚いガラスが割れることはない。中で眠る理仁の姉であろう女が、目を覚ますこともない。
「どうして、どうしてだよ……生活が苦しかったのなら俺に相談してほしかった! 俺だって姉さんの力になりたかった! なのに、なんでよりにもよって政府なんて馬鹿げた奴らの話に乗ったんだ。貴方は優しいから、血生臭い戦いなんて向いていないから……苦しかったんじゃないのか?」
いつの間にか、理仁の瞳からは止めどなく涙が溢れていた。悲痛な叫びだけが部屋を満たして、三日月も一期も、かける言葉さえ見つからないまま。
「貴方が死んだと聞かされて、葬式をして……そこが凄く綺麗な教会でさ。これは夢なんだと思った。いや、思いたかったんだな……」
顔を上げた理仁は、今まで誰にも見せたことがないような顔で……泣いていた。
「辿り着いた真実は……どうして、こんなに……っ! 虚しいんだろうな……ッ」
そのまま理仁はずるずると崩れ落ちるように、座り込んだ。ほんの些細な幸せが、少し手の中にあればよかった。生活が苦しくても、唯一無二の家族が隣にいるのならそれだけでどんな未来へも行ける気がした。奪われた、失った。悲しみに暮れ、決断したのは真実を追い求めることだった。
もがき苦しみ得た真実は、こんなにも無機質だった。