第9章 hell
「あのモニターで映ってた男、俺が来ることを最初から予測していたのか」
「ふむ、あの男というのはわからぬが恐らくそうであろう。何せこの扉の先には、宝条理仁が最も大切にしていたものが保管されている、と言っておった」
「……どうすればこの扉は開く?」
「門番である俺は術を解かれ、同時に扉の封印も解かれた。触れてみよ」
理仁が扉に触れると、ひとりでに鈍い音を立てて両扉が開いて行く。漏れ出した眩しい光に照らされて、その場にいた全員が目を凝らした。扉が開き切った頃には、何とか目も慣れ始めた頃だった。室内は一面真っ白な空間、大量のコードが部屋中を駆け巡りその中心には一台の大きなカプセルが置かれていた。
中には、一人の女性が入れられていた。
「識別番号零、奴らは……政府の人間は集めた荒魂をこの女に食わせることで、人工の歴史修正者を作り出すつもりらしい」
三日月の言葉は、最早理仁の耳には届いていなかった。記憶の中に眠る残像、心臓がどんどん脈を上げ速くなっていく。理仁はぎゅっと銃のグリップを握ると、忌々しげにカプセルを睨み付けた。
「やっと、会えたな……姉さん」
静寂の中で、理仁の声はよく響いた。
理仁の言葉を聞いた三日月と一期は、目を見開き一斉に理仁へと視線を投げた。理仁はただ冷静に、静かに前を睨み付けては一歩を踏み出した。