第2章 conspiracy
少しだけ足取りは軽く、再び物置部屋に向かった理仁は相変わらずしっかりと閉じられた扉に対してうーんと唸りながら向かい合っていた。こんこんっ、とノックをしてみても中でもぞもぞと音がするだけで開けてくれる様子もない。まぁ、無理はないのかもしれない。あの拒絶では。
「山姥切、先程の話の続きをしたい。出てきてくれないか」
「……断る」
一応返事をする気はあるらしい。ならばそれでもいいか、と理仁は扉の前で戸に背を向け座り込む。
「こんのすけから聞いた。お前、前の主との記憶が残っているんだってな。それも、あまり良い記憶じゃないと聞くが」
「……もう過去のことだ。あんたには関係ない」
「お前が俺を拒むのと、何か関係があるとするならばまったく関係がないとも言い切れない。俺はどうしてお前がそこまでして、俺を拒むのか知りたい」
「知ってどうする。同情でもするのか? それとも憐れんでよく頑張ったねとか、辛かったねなんて言うつもりか? 不愉快だな……。そうして善人ぶって、満足しているんだろう? 優しい自分とやらに酔いしれて、さぞかしいい気分なんだろうな」
「それがお前の持つ、人間とやらなんだな」
「……。あんたに話すことなんて、別に何もない。さっさと帰れ」
「同情してお前がここを開けてくれるなら、いくらでも同情してやるさ。ああ可哀想にな、まぁ俺にはよくわからんが辛かったんだろうな! 人に嫌なことでもされたか? 本当に本当に可哀想になぁ」
「……っ、馬鹿にするな!!」
勢いよく扉は開け放たれた。後ろを振り向けば、酷い顔をした山姥切が先程と同じように強く睨み付けて座り込んでいる理仁を見下ろしていた。真っ黒に淀んだ瞳は、どこまでも深い憎しみを映し出し見つめればそこから僅かな悲しみも読み取れた。