第1章 chess
「宝条様、どちらへ?」
「山姥切国広のところへ言って来る。俺はまだ、あいつとの話が終わっていない」
「話聞いてました!? あれには近付かないで下さいませ! 新品の山姥切様を宝条様にお渡ししますので」
「どんな経由であれ、俺の山姥切国広はあいつだけだ。交換の必要はない」
「しかし……! 余計な情報を持っている刀剣を手なずけるのは至難の業ですよ!? こんなこと、マニュアルにもありませぬ!! 大人しく我々の指示に……ッ」
「本丸での絶対的ルールを忘れたのか、こんのすけ」
ぞくりとするような冷たい声色で、言葉を発する。背中を向けていても感じる、酷く凍り付くような恐ろしさ。これは一体何だ、こんのすけは冷や汗を滲ませごくりと喉を鳴らした。目の前にいるのは、ただの人の子のはずなのに。理仁の言葉に返事をするのが、とても恐ろしいことのように思えた。
明確な理由のない恐怖ほど、身を支配するものもない。
「申し訳ありませんでした、宝条様。出過ぎた真似を致しました、どうぞお許し下さいませ」
「構わない。俺は……」
ただ一言、言葉を残して理仁は部屋を出た。
「俺は、あいつが良い」
理仁の口元は、綺麗な弧を描いていた。