第8章 laboratory
「私も躊躇うことなく刀を抜けるというもの」
「馬鹿なことはよせ、二人共」
「馬鹿なことじゃない。俺はあんたの近侍だからな、見極める権限くらいあってもいいだろう?」
「私は構いませんよ。山姥切殿が一番主殿をお慕いしていることは、ちゃんとわかっておりますので。それに私も……貴方を斬り伏せ主殿に認めて頂きたく思います」
「お慕いなどしていない! お、俺は単にちゃんと一期一振が理仁を守れるか試したいだけだ!!」
「ではそういうことにしておきましょう」
にっこりと一期が笑えば、山姥切は悔しそうに唇を噛んだ。食えない奴だ、とでも言いたげに。理仁は大きく溜息を吐くと、止める気も失せたのか仕方なく彼らから距離を取った。その気配を察してか、山姥切と一期は戦の時と同じような鋭い目つきへと変わる。
「居合で勝負と参りませんか? 早く目的地に到着する必要がありますので」
「長引かせたくない、ということか。いいだろう……」
互いに一度鞘に刀を納めると、睨み合い息を潜める。静寂が訪れる、木々が揺れる音のみが辺りを包み込む。息を飲むこんのすけとは打って変わって、理仁は真っ直ぐと二人を見守っていた。練度の差を言えば、若干山姥切が上だろう。しかし基本的な技術の差は、どうだろうか。
二人の間に、一枚の葉がひらひらと舞う。音もなく葉が地面に落ちた瞬間――それは訪れた。
瞬きをしている間に、一人の人物の首筋に刃が押し当てられていた。こんのすけを含め、理仁までも驚愕の表情を浮かべていた。冷たい刃を押し当てられてながら、にやりと笑ったのは。