第8章 laboratory
「国広」
「……あんたはいつもそうだ、身勝手で強情で滅茶苦茶で。俺がどんなに拒絶しても、しつこく付き纏っては鬱陶しくて堪らなくて。人間の癖に無茶ばかりして、馬鹿みたいに格好良くて俺は何処かそんなあんたの生き方に憧れてた。どうしたって俺はあんたになれないが、初めて変わりたいと思えたんだ」
山姥切はスラッと鞘から刀を抜いた。警戒して一期が自らの柄に手をかけるも、理仁は終始そんな彼を止めた。
「主殿!」
「これは俺と国広の問題だ。悪い、手を出さないでくれ」
「……それでも、私は主殿に何かあれば容赦なく山姥切殿を斬り伏せます」
「わかった」
更に一歩、理仁は前に踏み出した。互いに真剣な眼差しで対峙し、理仁もまた胸元から愛用の銃を取り出した。山姥切はそれを見て、続けるように言葉を紡ぐ。
「こんな俺でも生まれた価値はあるのかと、俺の刀は真っ赤な血で汚れている。どんなに洗っても洗っても、けして落ちることのない罪の汚れがびっしりとこびりついて……あんたにはもう話しただろう。俺が、前の主を殺したこと」
「……」
「俺は穢れている。それでもあんたは、俺を必要としてくれた。何があっても置いて行かないと言ってくれた。だから俺は俺なりにあんたを守ってやることにする」
山姥切はふっと笑っては、刀を構えた。その目に迷いの色はない。
「そこを通してくれ、国広」
「断る。一期一振、あんたが主を護衛するに値する刀剣であるか、俺に見極めさせろ」
「ほぉ……てっきり私は貴方と主殿が戦うのではないかとひやひやしましたぞ。それであれば」
一期は躊躇いなく刀を抜くと、理仁の肩を掴んで強引に自らの背に隠した。