第8章 laboratory
「主殿、山姥切殿が同行でなくて宜しかったのですか?」
「そうだよ。君と山姥切は一番長い付き合いじゃないか。彼を連れて行った方が安心だと思うが……」
「いや、わざわざ刀剣を連れて行ってもいいと提案する時点で、何か引っかかりを覚えるんだ。これは罠かもしれない。そう考えた方が妥当だ」
「まさか……っ、主殿は政府が何かよからぬことを企んでいると?」
「はっきりとはわからないし、お前達に教えられることは何もない。悪いが、石切丸……後の本丸のことは任せた。唯一の大太刀だ、何かあれば」
「君がそう言うなら、わかったよ」
石切丸はとりあえず納得した様子だが、一期はどうも腑に落ちないという顔で険しい表情をしていた。
「一期、俺と一緒に行くのは不満か?」
「いえ……寧ろ光栄に思っております。しかし危険だとわかっているのなら、尚更彼を連れていくべきだと存じます」
「駄目だ。政府は最初から国広のことを厄介者扱いしていた。連れて行けば、何をされるかわかったもんじゃない。頼む、俺はあいつを……失いたくないんだ」
そう理仁が伝えれば、迷っていた一期もようやく覚悟を決めたのか、深呼吸した後きりっと表情を引き締めた。そして改まったように、理仁の前に片膝をついて、まるで忠誠を誓う騎士のように。
「一期一振、主殿の護衛役、喜んで拝領致します」
「ああ、頼んだ」
理仁は一期を連れこんのすけと共に本丸を出て、門へと向かった。門の前には怖い顔をした山姥切が、柄に手を置き待ち構えていた。一期が一歩前に出ようとするが、理仁はそれを手で止め自らが一歩を踏み出した。