第8章 laboratory
「……おい、あんたもなんで俺の真似を」
「真似じゃない。相棒が回復するまで、共に休憩しているだけだ」
「あんたの性格からして、置いて行きそうなものを」
「国広だけは、置いて行かない。何があっても」
「……ッ、やかましい……!」
ただ穏やかな時が流れている。少しずつ、少しずつ近付いて行く互いの距離を知り、理仁は思う。
――この時間を、失いたくない……そのためには。
照れ笑いする山姥切を見つめながら、理仁は一つの結論を導き出す。日々何かを失いながら、何かを得る。それが自分にとって大切なものであればあるほど、失いたくないともがき苦しむ。未来のことなんて誰にもわからない。だから正しさなんてない。
「俺には……お前が必要だよ、国広」
理仁が微笑み、そう告げてやれば山姥切は一気に目を見開く。先程よりも倍以上顔を真っ赤に染めて口をぱくぱくさせる。口元を何とか抑えながら、俯き気味に……ぽつりと呟いた。
「それはこっちの台詞だ。馬鹿主……ッ!」
そして互いに、小さく笑い合った。
◇◆◇
大切だから守りたくなる、傍に居たいと思える。手を繋いだのなら、けして離さないように必死になる。誰よりも一番近くに居たい、必要とされていたい。そして同時に……――誰よりも幸せになってもらいたいと願う。
この手はあまりにも小さくて、指の隙間から零れ落ちてしまう。全てを救えない代わりに、どうかただ一人。大切な人を助けられますように。
理仁は外から戻ると、山姥切と共に一度汗を流しその後すぐ広間へと向かった。そこではエプロン姿の堀川が机に朝食を並べていた。