第8章 laboratory
付喪神でもある石切丸に祈祷。信じてみる価値はあると、理仁は心の中で思うのだった。
◇◆◇
朝になれば、いつもの時間に目を覚まし手早く身支度を済ませ、ランニングへと取り掛かる。玄関先へ行けば山姥切が待っていた。
「国広、早いな」
「あんたの走り込みとやらに、付き合うことにしたからな」
「無理に付き合わなくてもいいんだぞ?」
「……あ、あんたと少しでも一緒に……その……なんでもないっ!」
山姥切は何か言いかけたまま、それを飲み込むと勢いよく外へと飛び出した。
「なんだ? あいつ」
理仁は首を傾げると、すぐに山姥切を追いかけるように飛び出した。前方では勢いよく走っていく山姥切の背が見えた。――あれが奴の機動力か! とくだらないことを考えながら、理仁はいつもの自分のペースで走り始める。
気付けば山姥切はがくんとペースが落ちており、少しだけばてた様子で辛うじて走っていた。だんだん追いついて行く理仁は、山姥切が苦しそうに息をしていることに気付く。必死な様子が、少しだけ可愛く思えた。
「馬鹿だな、ペース配分を考えないからだ」
「……ぜぇ、はぁ……な、なんだその……なんとか、配分……はっ」
「ペース配分。後で今のお前みたいにばてないよう、自分の調子を上手く調整するということだ。お前はそれが下手だな。いや、これは下手というべきか? ただ勢い任せにも見えたしな」
「うっうるさい……! はぁ、もう……疲れた」
「刀剣でも疲れるんだな」
「疲労くらいある、馬鹿にするな……っ」
ついにその場に立ち止まると、山姥切は崩れ落ちるように腰を下ろし座り込んでしまった。そのまま通り過ぎてもよかったが、理仁も足を止め彼の隣に座った。