第8章 laboratory
「狐の姿をしていた、と?」
「……ッ!」
理仁がそう口にすれば、一期は焦ったように辺りを警戒していた。だがそれによりどんな狐なのか、そこまで想像出来てしまった。
「安心しろ、夜は基本的に活動できないよう俺が改造しておいた。俺も、奴には知られたくないことが山ほどあるものでな」
「……それを聞いて安心しました。その、貴方にいつも助言して下さっている狐、こんのすけ殿がどうも怪しいのではないかと睨んでおります」
「俺は最初からあいつは怪しいと踏んでいた。だがまだその時じゃないと思い、放置していたんだ」
「では……」
「そろそろ、俺が何か掴んだことを悟られ始めているのかもしれないな」
「主殿は一体、何と戦っておられるのですか?」
一期がそう尋ねると、理仁は少しだけ意外そうにしたが、すぐに何でもないことのように答えた。
「さあな、俺は自分の大切なものを守るために……力を惜しまない。ただそれだけだ」
「私達では、頼りになりませんか?」
真っ直ぐに理仁を見つめる一期の瞳は、決意と覚悟に満ち強固な光を持っていた。一期を信頼していないわけではないだろう。それは他の刀剣達にも言えること、だが……。
「悪いな。譲れないこともある」
「……わかりました。ですが、これだけは覚えておいて下さい! 私達は貴方の声に、いつでも応えてみせます。この身は主である貴方様のもの。存分に、お使い下さい」
「やめてくれ。俺はそんな器の持ち主じゃない」
ただ理仁は困ったように笑って、けれど小さく「ありがとう」と呟いた。何気なく理仁が一期の頭を撫でると、一期は顔を真っ赤にして更に俯いた。