第8章 laboratory
ゆらりと大きく蝋燭が揺れる。その様は、まるで今の理仁の心を映し出しているかのようだ。理仁は資料を整理しながら、脳内で知ってしまった情報の整理も兼ねる。嘘であってほしいと、願いながら。けれど佐伯が果たして嘘の情報を渡すだろうか? 渡して彼に何のメリットがあるのだろうか?
そう考えた途端、やはりこれは真実であると認めざる得ない。
「嘘だ……こんな、こと」
無意識に手が震える。そのせいか、次々に掴んでいた書類は音を立て床へと散らばった。明らかに動揺していた。小さく「落ち着け、落ち着け」と呟いては震えていない方の手で、もう片方の手を抑えた。何とか落ち着きを取り戻し、書類を現状に隠した。
途端、ことりと廊下で音がした。
「……誰だ!」
「夜分遅くに申し訳ありません。主殿」
「……一期か? 珍しいな、お前が俺の元を訪れるとは」
「はい、実は石切丸殿から言伝を預かっておりまして……明日でも宜しいかと思ったのですが、内容が内容なだけにすぐが宜しいかと思いまして」
「わかった、入ってくれ」
「失礼致します」
襖を開け、いつものかっちりした身なりで一期は室内へと入る。何やら辺りを確認して、手早く襖を閉めた。明らかに一期は何かを警戒している様子だった。
「で、どんな言伝だ」
理仁に促され正面に一期は正座した。
「石切丸殿は毎夜祈祷をなさっているのですが、今夜に限り何か良くないものを感じたらしいのです。そして脳裏に黒い、小さな影が見えたと」
「……小さな、影?」
「人ではないようです。何と申せばよいか……」
「ここまで言ったんだ、最後まで頼む」
「……はい。その影は小さく、動物の姿をして見えた、と。それも猫や犬などではないらしく」
「……」
そこまで口にすると、一期は気まずそうに顔を伏せた。理仁は彼の言葉で一つの答えへと辿り着いてしまう。