第3章 求愛
「風間……あまり性急な話は……」
天霧がやんわりたしなめても、風間は我関せずで続けた。
「何故だ……天霧?
妻取りたいと申し出ているのだから当然の話ではないか。
有希……我が妻になれば、俺はお前を何よりも大切にし、
どんな事柄からも守り抜き
……そして生涯、愛でてやる事を約束しよう。」
…………言ってくれる。
風間のこの顔で、こんな歯の浮くような台詞を言われて落ちねえ女は居ねえよなぁ。
案の定、有希も頬を桜色に染めて恥ずかしそうに俯いてやがる。
「篠森殿、この風間は西国の由緒ある大家、
風間家の頭領になります。
あなたが風間に嫁いで貰えれば、我々は俗世の醜い争いから
一切の手を引いて、西国に戻るつもりです。
あなたはそこで風間が言うように、
安穏と平和に暮らすことが出来るのです。
これはあなたにとって悪い話では無いのですが…。」
天霧の穏やかな説得に耳を傾けていた有希は、困ったように俺の顔を見た。
だから俺は助け船を出すつもりで、有希を落ち着かせるように言ってやる。
「俺達もな…別にお前を此処から追い出したい訳じゃねえんだ。
ただ風間の申し出を聞いて、
決してお前にとって悪い話じゃねえと判断したから
こうしてお前に聞かせてる。
勿論、無理強いはしねえ。
お前が自分でどうするのか決めていいんだぜ。
なあ、…近藤さん。」
「ああ…そうだとも。
篠森君、我々が一番望んでいるのは君の幸福だからね。」
有希は俺と近藤さんの顔を交互に見てから、一呼吸置いて風間に向き直り
「………少し、考えさせて下さい。」
と頭を下げた。