第2章 濡れた羽根
「有希…」
暖かい陽射しを浴びながら縁側で縫い物をしている私を、廊下の向こう側から土方さんが呼ぶ。
土方さんの後ろにはさっき部屋へ案内した彼も立っていた。
「あ……お帰りですか?」
私はそう言って立ち上がり、土方さんの方へ小走りに向かう。
土方さんは後ろに居る彼の方に顔を向けて
「こいつは風間ってんだ。
俺の…まあ……昔からのちょっとした知り合いだ。」
と少し改まった感じで紹介してくれた。
「篠森有希と申します。」
私は名乗ってからぺこりとお辞儀をする。
「風間……千景だ…。」
先程の尖った物言いとは違う穏やかな声に私が顔を上げると、彼の深紅の瞳は優しい光を湛えて私を見つめていた。
そして片側の口角を上げて「ふん」と微笑んでから
「確かに……こんな出会いも悪くない。」
呟くように言った。
その言葉の意味を理解出来ない私が小首を傾げると、彼は踵を返してすたすたと行ってしまう。
「あ……お見送りを…」
言いかけた私を「要らぬ」と手で制してから彼は振り向き
「……また、来る。」
と言って再び玄関に向かって歩き出した。
その背中を見つめていた私に土方さんが声を掛ける。
「……いい男だろ?」
土方さんが他の男の人を誉める言葉なんて初めて聞いたような気がする。
ちょっと面食らったけれど、私はその問いに正直に答えた。
「そうですね。……とても…綺麗な人。」