第2章 濡れた羽根
「どういう事だ。説明しろ。」
「何の話だ?」
「白ばっくれるな。土方…。」
風間の有無を言わせねえ物言いに、俺は諦めて溜め息を漏らした。
「まあ…まずはお前が有希の前で騒ぎ出さなかった事には感謝するぜ。」
俺は仕方無く有希の身に起こった出来事と、その結果を簡単に話して聞かせた。
話が進む内に風間の目が怒りで益々紅く染まって行く。
話終わると風間は鋭い眼光で、俺を睨み付けて言った。
「…………どいつだ?」
「それを聞いてどうするつもりだ?」
「殺すだけでは飽き足らん。…斬り刻んで膾にしてやる。」
「そう言われて……
はい、こいつですって差し出す訳ねえだろうが…。」
と俺はまた一つ溜め息を漏らす。
「そいつはもう此処には居ねえよ。
それから…それが誰かをお前に教えるつもりもねえ。」
風間は「…ふん」と嘲笑して、俺を見下すような目を向けた。
「お前達が有希を守ると言い張って、此処に置いていたのでは無いのか?
……番犬にも劣る愚行だな。」
そんな風間の言い種に正直苛立ちはしたが、俺は何とか平静を保って風間に頭を下げた。
「全く……言葉もねえよ。……すまない。」
「お前のそんな姿を見せられるとは……気味が悪いな。」
頭を下げ続ける俺を、風間は値踏みするような視線で暫く見ていたが
「とにかく……有希は我々の元へ連れ帰る。
もう此処に置いておくなど我慢ならん。」
と立ち上がりかける。
「……ちょっと待ってくれ。」
「何だ…?
この期に及んでまだ俺達が守る等と
ふざけた事を言うのではあるまいな?」
「いや…流石にそうは言えねえが…」
もう一度腰を下ろして俺を見据える風間に、俺は居住まいを正して頼み込む。
「最初から…有希と出会ってやっちゃくれねえか?」