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薄桜鬼~最愛~

第2章 濡れた羽根


「お前はまだそんな事をやらされているのか?」

中庭で掃き掃除をしていた私の前に突然姿を現したその人は、苦々しい表情を隠しもせずにそう言った。

風に靡く金色の髪、石榴のような深紅の瞳……

真っ直ぐに私を見据えて立つ彼から何故か私は目が離せない。

「……どうした?」

彼にそう問われて、はっと我に返り

「あっ……申し訳ありません。あの…どちら様でしょうか?」

とおずおずと聞く私に彼は

「……何だと?」

何故か怒気を孕ませた声で答えた。

その殺気すら感じる迫力に怖じ気付き、少し身を縮ませて見上げる私の顔を彼は不審気に見下ろし

「……………お前……?」

と探るような視線を注ぐ。

「あ……あの…?」

「土方……と言ったか?あいつは居るか?」

「は…はい。土方さんのお知り合いの方なんですね?」

「そのようなものだ。…案内しろ。」

「はい。こちらです。」

土方さんの知り合いだと分かって、ほっとした私は彼を部屋に案内した。


「土方さん。」

土方さんの部屋の障子戸の前で中に声を掛ける。

「何だ?」

「お客様がおみえです。」

「客?…そんな約束をした覚えはねえが……」

土方さんがそう言い終わらないうちに彼は突然障子戸を開け放ち

「邪魔するぞ。」

と中へ入って行ってしまう。

「………お前っ…」

彼の姿を見た瞬間、土方さんの緊張が一気に研ぎ澄まされたのが伝わる。

それを不思議に思いながら私が

「お茶をお持ちしますね。」

と退室しようとすると

「ああ…茶は要らねえ。
 それと…この部屋に誰も近付かねえようにしてくれ。」

土方さんはそう言って、私の視線を遮るようにぴしゃりと障子戸を閉じてしまった。

どうしてだろう……まるで彼の姿を私に見せたくないみたい。

……やっぱり私が忘れてしまっている何かと関係あるんだろうな。

とぼとぼと土方さんの部屋から離れながら、あの人の吸い込まれそうな深紅の瞳を思い出す。

…………何故かちくりと胸が痛んだ。
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