第1章 あどけない温もり
有希ちゃんが今日もちゃんと目を覚ましてくれた。
そんな当たり前の事が、今の僕には凄く嬉しいんだ。
あれからもうすぐ半年になるのに、僕は今でも時々怖くなって夜中に有希ちゃんの部屋の前に佇んでしまう。
自分でも我ながら心配性だなぁって思うけど…でも何度か新八さんや左之さんと鉢合わせした事もあったから、心配性なのは僕だけじゃ無いんだけどね。
…そう言えば、一度だけ土方さんが居た事もあったなあ。
そんな時、有希ちゃんの魘されるような声が聞こえると、僕は堪らなくなってこっそり部屋に忍び込んでは朝まで君の顔を見てるんだよ。
あの朝……全てを忘れて目覚めた君は、近藤さんが言った事を疑いもせず受け入れてくれたね。
何もしなくていいって言ってるのに、身体の傷が癒えてからは以前と同じようにまた僕達の為にくるくると働いてくれている。
時々、一人で不安そうにしてるのも前と一緒だね。
そんな時に有希ちゃんを支えていた平助はもう居ないから……
だから僕が頑張ってるんだけど…有希ちゃんは気付いてくれてる?
僕はね……気付いてるよ。
有希ちゃんが時々、切ない目をして僕を見つめてくれている事……。
本当に頑張った甲斐があるよ。
もう……告げてもいいかな?
「好きだよ」って言ってもいい?
だけど……ごめんね………もう言えないんだ。
僕は………死病に冒されてる。
自分の身体の事だから薄々は感付いていたけど、一月くらい前に松本先生から告げられた時はやっぱりちょっと驚いたかな。
此処から離れて静養するように言われたけど、近藤さんの為に刀を振るえない僕なんて生きている意味が無いし……何より有希ちゃんと離れる事なんて考えられなかった。
必ず君を幸せにするって約束したのに……一君に合わせる顔が無いよ。
でも……僕の命が尽きるまでは絶対に有希ちゃんを守り抜くから。
それで許してくれるかな……一君。