第9章 かたちあるもの
黙ったままの有希ちゃんに、僕は再度冷たい声で問い掛けた。
「………何で?」
有希ちゃんは一瞬泣き出しそうな顔をしたけど、一度唇を噛み締めてからぎこちない笑顔を作る。
「沖田さんが夕餉を取られなかったって聞いたので、お粥を作って来ました。
沖田さんの好きな大根おろしを入れて……」
「要らない。食べたく無い。」
「駄目ですよ。ちゃんと栄養を取って、お薬も飲まないと……」
「五月蝿いなっ!要らないったら要らない!」
僕の怒鳴り声にびくりと身体を強張らせた有希ちゃんは、それでもまた健気に笑顔を作って
「じゃあ……此処に置いておきますね。気が向いたら食べて下さい。」
と部屋を出て行こうとする。
その少し震えている背中に僕は声を掛けた。
「ねえ……有希ちゃん。」
有希ちゃんが無言で振り向く。
多分、声を出したら泣き出してしまいそうなんだろう。
「有希ちゃんは、やっぱり此処に居ない方がいいよ。」
「……………………」
悲し気に歪んだ有希ちゃんの顔を見て僕の胸も締め付けられたけど、僕は無理矢理に笑顔で続けた。
「あの人のお嫁さんになった方が、有希ちゃんはきっと幸せになれるよ。
ほら、あの人格好良いし、それにもの凄く強いから……
絶対に有希ちゃんの事を守ってくれるだろうしね。」
有希ちゃんの目にどんどん涙が溜まっていったけど、もう僕は自分でも止められなくなっていた。
「あの人のお嫁さんになって…
この前、不知火さんって人が言ってたみたいにいっぱい子供産んでさ……」
「…………………がいいです。」
有希ちゃんは遂に耐え切れなくなったのか、ひくひくとしゃくり上げながら何か言ったけど僕は聞き取れずに「何?」と聞き返した。
「産むなら……沖田さんの…っ…沖田さんの子が…いいです。」
「何……言ってるの?」
有希ちゃんの口からまさかの言葉が出た事に驚いて、僕はごくりと喉を鳴らした。
……それって同情なのかな?
僕に未来への希望を持たせようとか…そういう作戦?
そう思ったら僕は何だか苛ついてきて、有希ちゃんをもっと困らせたくなった。