第8章 君の声
「何故、あんたが平助に謝る?」
私の真意を探るような視線を向ける斎藤さんに、私はすがり付くように言う。
「平助君の気持ちに気付かないまま……いつも甘えてて…
それから…その想いに応えられなくて…ごめんなさいって……。」
斎藤さんは呆れたように息を吐くと
「本当に……あんたという人は………」
と言いながらも微笑んでくれた。
「分かった。伝えておこう。」
「平助君に会うことは出来ませんか?」
斎藤さんの目が少し悲し気に細められ、私を説き伏せるような声色になる。
「平助は、二度と有希の前に姿を現さないと誓って此処を出た。
これから先、もう会う事は無いだろう。」
「………そうですか。」
「だが……先程の有希の気持ちを伝えてやれば平助も救われる。
きっと……いや、必ず喜ぶはずだ。」
平助君に二度と会えない…その言葉が重すぎて、私は俯いてしまう。
「有希…顔を上げてくれ。」
その言葉に促され顔を上げると斎藤さんの顔がぐっと近付き、そして私の顔を確かめるように見つめて言った。
「良かった……傷跡は残らなかったようだな。
元通り…綺麗なままだ。」
「………綺麗?」
「ああ…有希は綺麗だ。心も身体も……。
汚れている所など、一つも無い。」
斎藤さんの優しい眼差しに、私の瞳に涙が滲む。
「有希……俺の願い事を一つだけ叶えてくれるか?」
「斎藤さんの……願い事…ですか?」
「ああ……。
どうか…幸せになって欲しい。」
耐え切れず、私の目からぽろぽろと涙が溢れ落ちた。
斎藤さんはずっと前から私を見守ってくれていた。
平助君や沖田さんのように手を引いてくれた訳では無いけれど、それでも私はいつも斎藤さんに守られていると感じていた。
斎藤さんは私にとって、兄様のような存在だった。
守ってくれて…支えてくれて…そして導いてくれる。
涙を溢し続ける私を慰めるように斎藤さんは続けた。
「出来る事ならば……総司と………。」
私は溢れる涙を手の甲で拭いながら、何度もこくこくと頷いた。