第7章 きみが残していったもの
風間さんは不思議そうに眉を寄せて、私の次の言葉を誘導するような視線を向けた。
「その人に…怖い…と言ってしまいました。
触れられるのが怖いって……。」
「怖い?……何が怖いのだ?」
「自分でもよく分からないんです。
ただ……その人が汚れてしまうような気がして……」
風間さんは大きく息を吐いた。
「生地獄だな……惚れた女がすぐ側に居るのに触れられんとは………
その男が気の毒だ。」
俯いたままでいる私のすぐ隣まで風間さんが近付いた気配を感じた瞬間、
「有希…………触れるぞ。」
風間さんは片腕で私の肩を抱き寄せた。
「怖いか?」
私は首を横に振った。
「俺は…汚れているか?」
すぐ側にある風間さんの顔を見上げる。
風に靡く金色の髪、石榴のような深紅の…優しい瞳……
風間さんは何も変わらず……綺麗なままだ。
「………いいえ。」
突然、風間さんの唇が私の額に落ちてきた。
私が驚いて目を見開くと、また「ふん…」と笑って
「お前を諦めるのだ。
最後にこれくらいの褒美を貰った所で、罰は当たらんだろう。」
と言ってから、私の身体をそっと手放した。
「我等は明日、西国へ戻る。お前の気が変わったら…いつでも来い。
いや…お前がまた涙を溢すような事があれば……迎えに来る。」
そう言って去っていく風間さんの背中を、私はいつまでも見つめながら……沖田さんに会いたくて堪らなくなっていた。