第6章 影
「沖田さん……何処に居たんですか?
山崎さんが探してましたよ。
お薬の時間なのに、沖田さんが居ないって……」
言葉が終わらない内に、私の身体は沖田さんの腕に絡め取られた。
「ごめん……今は君を抱き締めたくて堪らない。」
「……沖田さん…」
「君が…僕の側に居たいって言ってくれたから……
ねえ、有希ちゃん……ずっと僕の側に居て。」
嬉しい……。
これが不知火さんが言ってくれた私にとっての『嬉しく思える選択』だ。
私は沖田さんの胸に顔を埋めて頷くと、自分の腕を沖田さんの背中に回した。
「………愛してる。」
沖田さんの手が私の顎に掛かり、顔を上に向かせるとそっと唇が落ちてきた。
何度も浅く口付けられて、私は蕩けてしまいそうになりながらも……何故か身体の奥底から黒い靄が沸き上がって来るような感覚に襲われる。
そして、沖田さんの舌が私の唇をなぞった瞬間………
『何で総司なんだよっっ!!
俺だって、ずっと………俺の方がっっ…』
どくんっ……………と、私の身体の中で何かが爆ぜた。
平助君の声だ………
有希ちゃんは突然、僕を突き飛ばして腕の中から逃げた。
そして怯えた目で僕を見つめて言った。
「………平助君の声…」
僕の背中に冷たい汗が流れる。
「……思い…出したの?」
有希ちゃんの目にじわりと涙が浮かんだ。
僕がもう一度抱き締めようと手を伸ばすと、有希ちゃんは身体を捩り……その手から逃げた。
「……怖い…」
「有希ちゃん?」
「……怖いんです。」
「怖いって……何が?」
「沖田さんに触れられるのが……怖い。」
「…………………っ」
僕は何も言えずに、有希ちゃんへ伸ばしていた手を引っ込める事しか出来なかった。
「ごめんなさい……沖田さん。
………ごめんなさい。」
有希ちゃんは涙を溢して謝ると、僕の部屋から出て行った。