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薄桜鬼~最愛~

第5章 低体温


屯所中をふらふらと歩き続けていた僕を、土方さんが見咎めて声を掛けてきた。

「総司…お前、何やってんだ?
 さっきも変な咳してただろうが…大人しく寝てろ。」

僕は薄笑いを浮かべて土方さんに聞いてみる。

「……有希ちゃん、お嫁に行くんですってね?」

「ん…ああ……お前に何も言ってなくてすまねえな。
 はっきりどうなるか決まるまでは、
 あんまり人にべらべら喋る事じゃねえからよ。」

土方さんの他人行儀な言い方に僕は少し苛ついたけど、もうそれに嫌味を言う事すら面倒臭かった。

「いつ……行っちゃうんですか?」

「行かねえよ。」

僕は何も言葉が出ず、ただ土方さんの目を見た。

その目がふっと和らぐ。

「さっき有希が俺の所に来てな…
 風間からの申し出は断ってくれだとよ。」

「それ……本当に?」

「お前に嘘吐いてどうなるよ。
 それから、こうも言ってたぜ……
 此処に残りたい、沖田さんの側に居たい……ってな。」

土方さんは僕の顔色を伺うようににやりと笑った。

「やっぱり有希は有希だったって事だな……。
 お前のどこがそんなにいいんだか……」

「相変わらず失礼な人だなぁ…土方さんは。」

精一杯の皮肉を言う僕の顔は脂下がっていたと思う。

「そういう事だからよ…お前も自分の身体をもっと大事にして
 さっさと病気を治しやがれ。」

「………はい。」

頷いた僕に「そんな素直なお前は気味が悪い」と土方さんは眉をひそめた。

「それにしても…まるで娘を持った父親の気分だぜ。
 風間に何て言って断ればいいか……頭が痛えよ。」

土方さんはそう言って苦笑した。


土方さんと別れてから、僕はどうしても有希ちゃんの顔が見たくなって屯所中を探し回った。

でも有希ちゃんの姿は何処にも見当たらなくて……

実は土方さんの言った事は僕を誤魔化す為の嘘で、有希ちゃんはもう風間の所に行ってしまったんじゃないかとか有り得ない事まで考え始めた僕は、疲労困憊で自分の部屋に戻った。

自分の部屋の障子戸を開けると……そこに有希ちゃんが居た。
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