第5章 低体温
有希ちゃんが俯いて縁側に座っているのを見かけた僕は、ここは自分の出番とばかりに声を掛けようとしたけど、僕より先にあの不知火って奴が有希ちゃんに話し掛けて、しかも隣に腰を下ろしてしまった。
勿論、有希ちゃんが危ない目に合うようなら飛び出して行くつもりだったけど、何だかそういう雰囲気でも無いし……
結局、僕はまるで盗み聞きをするような格好で、その場から離れられない。
その結果、僕は知りたくなかった事を知ってしまった。
風間からの求婚、それに対し……有希ちゃんが断らなかった事…。
そこまで聞けば…もう十分だった。
自分でも情けないとは思うけど、僕は逃げるようにしてその場から離れた。
覚束ない足取りで何処へともなく歩いていた僕は、土方さんの部屋から出て来た風間と天霧を見掛けた。
ああ…土方さんの差し金なのか…。
僕の想いを知ってる癖に…やる事が酷いよね。
いや……違う。
土方さんも当然僕が病に冒されている事に気付いてるはずだし…そんな僕に有希ちゃんは任せられないって思ったんだろうな。
有希ちゃんが僕の事を好きになってくれている…なんて思ってたのも僕の勘違いだったんだ。
僕はあまりにもみっともない自分自身を嘲笑するしかなかった。