第3章 1.合宿しようよ!
それからもステップ練習は40分続いた。その間、先輩は何も喋らない。それどころかずっと1点だけを見つめていた。ただ目の前だけを。
先輩は何を思って練習している?きっとこの練習はそれを理解していないとただの基礎練で終わってしまう。本当の目的はそれではない。
ふと周りを見て見ると、明らかに先輩方の表情が変わっていた。キセキの世代のような、先輩のような強い表情。
同学年の顔を見ても、半分は変化していた。表情が変わった人は多分、この練習の本質を見抜いた人だ。私も考えなければ。同学年に、先輩に置いて行かれないように。
私は必死で考えた。手を抜かないように、それでも必死に頭を働かせる。その結果、分かった。やっぱり先輩は凄い。
それから30分後、リコさんから終了の合図が告げられた。その頃にはほとんどの人の表情が変わっていた。変わっていなかったのは…
『佐野君だけ、か…』
佳苗「先輩…」
『あ、ごめんね。それにしても佳苗にしては随分時間かかっちゃったね。難しかった?』
佳苗「はい。もっと早く先輩の表情を読み取れてたら短縮出来たんですけど」
『クスッ…あたし、佳苗の負けず嫌いな所、好きだよ』
佳苗「っ!!!」
先輩に…好きって…言ってもらえた…!!!!
佳苗「ありっ!ありがとうございます!!!」
今回の真の目的。それは少しくらい力を抜いても大丈夫だろうという自分の甘やかさと戦う事。人間というのは楽をする生き物。特に単純な作業ほどに。このトレーニングはその人間の、自分自身の本質に打ち勝つ事。
先輩は本当に凄い。凄すぎて追いつけない。けど、私だって先輩と同じコートに立ちたくてここまで来たんだから。追いつけなくても、絶対に見失わない。
先輩。
先輩は私の光です。全てを照らしてくれる圧倒的な、それでいて優しくて暖かい、大好きな光です。