第3章 1.合宿しようよ!
貴司「…何が言いたい」
拓斗「あの人は確かに天才だよ。だけどそれは努力あってこその天才だ。いつも誰よりも遅くまで残って練習し、誰よりもバスケの事を考えてる」
拓斗君…するとあたしの肩に手が置かれた。征ちゃんだった。征ちゃんは口に手を当てて静かにするように言う。あたしは頷き、1年生の会話に耳を傾けた。
佳苗「花森君の言う通りです。先輩は私達以上に自分に厳しく練習しています。何も知らないくせに悪く言うのはやめてください」
友香「佳苗、よく言った!そういう事だよ、佐野。本当に何もせずに自信過剰なのはあんたの方じゃない?口を動かす前に行動したら?練習したら?アンタ、確実に弱くなってるよ」
友香の声を最後に、1年生達はその場を後にした。しかし佐野君だけはそこから動こうとしない。佐野君の眼の光はすでに薄れていた。
佐野君の元へ行こうとすると、征ちゃんに手を引かれた。そしてそのままフロアに移動する。
『征ちゃん!なんで止めたの!?いくら何でもあれは…』
「構わない。アイツラの言っていたことは正しい。の事を何も知らずに文句を言っていただけだ。それに貴司は最近、練習に真剣に取り組んでいなかった。それこそ自信過剰が原因だろう。貴司にもいい薬だ」
『だったら尚更言わなきゃ!この合宿が無駄になっちゃう!』
「それはアイツが自分で気づくべきことなんだ。この合宿を有意義なものにするかどうかはアイツ次第だ。は貴司に認めさせることだけに力を使ってくれ」
『征ちゃん…』
すると、征ちゃんに抱きしめられる。征ちゃんもシャワーを浴びたのか、石鹸の良い香りと征ちゃん独特の香りがした。落ち着く、大好きな匂い。
「そんな顔をしないでくれ。僕はにそんな顔をさせるのであれば、貴司を帰らせなければならなくなる」
『うん…ごめん、征ちゃん。あたしは大丈夫だよ。佐野君の事も、必要以上に干渉しない。あたしと征ちゃんのバスケを認めさせることだけに全力を注ぐよ』
征ちゃんを抱きしめ返すと、ゆっくりと離れて歩き出した。合宿はまだ始まったばかり。佐野君の事だけに注意をとられてはいけない。やる事は山ほどある。
気持ちを入れ替えると、準備をするため征ちゃんと別れ、体育館へと歩き出した。