第7章 ◆花火祭り
「 ど、どうですか…?
変、じゃないですか…?」
夏目を前に照れくさそうに聞くのは
薄い紫の生地に淡いピンクと白の
牡丹の花があしらわれた浴衣を身に纏い、
いつもサラッと下ろしている黒髪を
ひとつに束ね、サイドに編み込み
浴衣の柄と同じ牡丹の髪留めで
結い上げるさなだった。
いつもとは全く雰囲気の異なるさなを前に
夏目はただ言葉を失い、見とれていると
「 あのー…夏目先輩…?」
この空気感に痺れを切らしたさなが
恐る恐る尋ねた。
再度、声を掛けられ
夏目がはっと我に返り
「ぁ、・・・あぁ、すごく綺麗だよ。」
そう率直な感想を述べると、
さなは更に顔を赤らめる。
「まぁまぁ、それくらいにして
早く行かないと
西村くんが待っているでしょう?」
2人のやりとりを見かねた塔子さんが
間に入り、外出を促しながら
せかせかと2人の背中を玄関へ押しやる。
「 はいっ、いってきます。」
「10時までには帰ります。」
それだけを残し家を出ると
塔子さんのいってらっしゃい
の声を後ろに聞き ,
2人は会場の神社まで足を進めた。
ー…さなをひとりで家に残しておくのが
気掛かりで、無理を承知で藤原夫妻に
少しの間さなも一緒に住めないかと
提案したけれど、
案外、すんなり承諾されて
寧ろ、娘ができるのね!と歓迎していたくらいで
さなは娘のように可愛がられている。
今日も塔子さんのお下がりの浴衣を
さなは着させてもらっていて
和服には、流行り廃りがなく
古いもの程味が出るように作られているのか
擦れ違う浴衣の女の子たちとは
比べ物にならないほどさなの浴衣姿は
魅力的に見える。
藤原夫妻に頼んで一緒にさなと
生活しているのもあと1週間程度だが、
まだ一緒に居たいと思うのは
過保護の親の心情なのか、または
西村が言っていた別の心情なのか…。
夏目は上の空でひたすら
考えを頭の中に巡らせていた。