第6章 ◆名取の札 (弐)
「凪雲…様?」
夏目の疑問の声に
暫く黙っていた名取が少し前に出る。
「あぁ、
凪雲さまは、一度祓われた。
名取家に追放され、
妖力が徐々に抜けていっている祓い屋に。」
「妖力が抜ける?」
名取の言葉に夏目が振り返ると
名取は変わらぬ表情で答えた。
「名取家は、追放した者に力を与えてはおかない。
未練が復讐となって舞い戻ってくると困るからね。
…といっても、
体の一部となっている妖力というのは
すぐに消すことができない。
だから、徐々に妖力を消していくんだよ。
彼は、自分が追放された理由が分からず
追放されてもなお、妖を祓っていたようだけど
自分の力が弱くなっていることには
気付かなかったんだろう。
凪雲様もその一例で
私達に見えるその姿を祓うことが出来たとしても
凪雲様の中にある李雲様や村を思う気持ち
その全てを祓うことは出来なかったみたいだね。」
ーということは…。
夏目が李雲様とさなへ視線を戻すと
背後でニャンコ先生の
ふん、という一息が聞こえる。
「…皮肉だな。
凪雲は姿がなくなり、
李雲が毛嫌いしていた人間が作った社に
身を置いて回復するのを待っていたんだろう。
そして、20年が経ち
声が出せるようになり
李雲を呼び続けるも
塞ぎ込んでいる李雲には届かず、
気付いた勘のいい奴が近付くと
李雲の邪気に当てられる。
そんな悪循環な事を繰り返していたのだ。」
その手、退けんか。
と李雲様に対し言い放つニャンコ先生をよそ目に
さなはふっと微笑むと
ゆっくり李雲様の手を両手で包み込んだ。
〝本当に、凪雲…なのか…?〟
ぎこちなく聞く李雲様に
さなはゆっくりと頷く。
「 李雲、言ったでしょ?
私がいなくても守ってねって。
私は、姿はないけど
ずっと李雲の傍に居たのよ。
李雲に声が届かなかったから、
この子に体を貸してもらったの。
あの時亡くなったキツネたちの子孫も
この森で暮らしてる。
また、守っていこう…李雲。」