第6章 ◆名取の札 (弐)
李雲様の手の平の上で
徐々に大きくなる緑の球体が
李雲様の手の平には収まらない程の
大きさになった時、
李雲様はそれを頭上まで持ち上げると
片方の口角を上げ
〝凪雲、見てて。〟
そう呟き、
球体を勢い良く2人に向けて放った。
バ---ン !!
夏目と名取は自らの腕で顔を覆い
ぐっと衝撃に耐える。
…しかし、
届く筈の衝撃は無く
代わりにふわりと目の前に違う気配が現れ
恐る恐る腕を解き、李雲様の方へと目を向ける。
そこには
「さな…っ?!」
「猫ちゃん…」
李雲様に覆い被さるように動きを静止させる
さなの姿と
さなの行為のお陰で軌道が逸れた球体を
光で壊したのであろうニャンコ先生が
本来の姿で悠々しく立っていた。
「 間に合っ…た…。」
〝なっ…お前は…。〟
覆い被さっていたさなが
ゆっくりと体を起こし、半歩下がると
そのまま床にぺタンと座り込む。
そして、安堵の声を漏らすと
驚き、次第に怒りに満ち溢れる李雲様を
しっかりと見据えた。
〝お前は…
仮にも僕に仕えたがった巫女だろう?
邪魔をするのなら、消えてくれ。〟
李雲様は何の躊躇いもなく
さなの前に手を振りかざした。
「さなっ!!」
その光景に夏目が飛び出すが、
ー…間に合わないっ!
李雲様がさなに向けて手を振り下ろした
その瞬間
「 李雲、やめてよ。」
酷く穏やかな表情でさなが言葉を発すると
李雲様は振り下ろした手を、
さなに当たらないギリギリの所で止める。
「さな…?」
様子のおかしいさなを前に
夏目も立ち止まると
ニャンコ先生が招き猫の体に戻り
トテトテと近くまでやってきた。
「今のさなは
…凪雲だな。」