第6章 ◆名取の札 (弐)
名取と夏目は
頭の中に直接響く声に
顔を歪め、辺りを見渡す。
「李雲様…かい?」
〝あぁ、如何にも。〟
名取の問いに即座に答えると
二人の目の前で
白い何かが現れる。
「何だ…?」
二人がその物体に目を凝らすと
白い何かは徐々に形を変えていく。
ーそして…
「子供…?」
変化の最終地点であろう、人型に変わると
動くのをやめ、彩りがついていく。
そして、
ひとりの少年の姿に変わると
二人は唖然とした。
〝ようやく来たね、名取。
この時をずっと待ってたんだ。〟
李雲様は名取へニコリと笑いかけるが
その形相は酷く、怒りに満ちていた。
〝これでやっと、
凪雲の未練が、晴らせる…。〟
李雲様が目の前に手の平を差し出すと
その上にポコっと緑の光る球体が現れる。
「待ちたまえ。
貴方が記憶している
過去に此処を祓った名取の者は
名取を追われた者だ。」
名取はいつもとは違う真剣な表情で
李雲様から目を逸らす事無く話す。
「術には長けていたが、気性が荒く手荒で
何の害もない妖を派手に
虱潰しの如く祓っていたので
名取からは追い出され、
名取とは無縁となっていた。」
名取が言い終えると
李雲様はふっと息を吐き
名取を見据えると
〝そういうことだったのかぁー。
…なんて、
言うとでも思った?
大方の予想はついていたよ。
僕も、長い事この世界に居るんだ。
色んな祓い屋だって見てきた。
けれど、
手癖の悪い祓い屋を野放しにして
自分達は関係ないだって?
それが許せないんだ。
だから、ここで消えろ。
凪雲が居なくなったこの森で…!〟
李雲様は手の平の球体に力を入れ
どんどんと膨らます。
「名取さん!
一先ずここから離れましょう…!」
痺れを切らした夏目が名取に呼びかけ
真後ろにあった襖に手を掛ける。
…が、しかし
「なっ、開かない…?」
二人が力一杯に引いたり叩いたりしても、
襖は開かなかった。
〝もう逃がさない。〟
そして、李雲様の声だけが低く響いた。