第6章 ◆名取の札 (弐)
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「 ハァッハァ…!」
体力の限界もとうに越し
息を切らしながら走り続ける夏目は
少しだけ後ろを確認する。
「夏目!休んでいる場合かい?」
「分かってますよ…!」
名取の言葉に前を向き直し
また、走り続ける。
ー…なんだってこんな、
此処には李雲様だけじゃないのか?
夏目と名取は
後ろから物凄い速さで追い掛けてくる妖を
振り払うことができず
神殿内に逃げ込んだはいいものの
只管走り続けている。
「名取さん…!
いつまで逃げてればいいんですか…?!」
同じような所を右回りに
ひたすら走り回っているような感覚に
夏目は疑問を呈す。
「夏目が囮になってくれれば
その間に封印の準備が出来るが…、
なんせ、神殿内に入ったのは初めてでね、
どこに何があるか分からないんだ。
もう少しだけ走ってくれるかい?」
この碁に及んで表情を崩さず話す名取に
夏目はため息を零したい所だが
迫り来る妖がそれを許さない。
…ーはぁ…。
さなは大丈夫だろうか…?
事の発端は
さなから李雲様の怨念を払い終えた
夏目と名取がぐったりしている所だった。
完全に気を失ったさなを
そのまま地面に寝かせ
二人が一息つくと、
「人間!人間ガ居ル!
喰ッチマエ!」
何処からとも無く現れた妖が
ドタドタと二人を目掛けて走って来る。
「まずいね、
封印してもいいが…
さなちゃんが居るんじゃ
確実に巻き込んでしまう。
…夏目、走れるかい?」
既に逃げる体制に入った名取に続き
夏目も立ち上がると
「分かりました…。
ニャンコ先生、さなを頼んだ。」
そうニャンコ先生に残し、
2人で妖の囮になるよう目の前を横切り
神殿内へと走り、
今に至るのだった。
「 あんな小物、
私が追っ払ってやれるのに」
そう呟くニャンコ先生の声は
2人に届く事も無く・・・。