第1章 ◆少女の名
「起立ー、礼ー」
午前中の授業が終わり
クラスではみんなパタパタと
席を移動し昼食の準備に取り掛かる。
「夏目ーパン買いにいこーぜー。」
午前の授業で使った教科書を整理していると
西村がドア先で千円札をヒラヒラさせながら
俺を呼んでいた。
「あぁ、先に行っててくれ。」
急いでいるであろう西村に先に行ってもらうと
俺はゆっくりとその後を追った。
そして、購買所に行く手前
階段を下りてすぐの所に
窓から外を見やる1人の女子生徒が視界に入った。
……ん?
同じくして、妖の気配を感じた俺は
その子の視線の先に目を移す。
大きなガタイをした
ひとつ目の妖がこちらを見て
その細い腕を存分に振り回しながら
何かを訴えている。
「 ……ここじゃ、駄目だよ。」
きっと俺以外には聞こえていないだろう
消え入りそうなその声は
すうっと
妖のもとへ届いたようで
妖は残念そうに腕をおろし俯いている。
「 学校終わったら、森で返してあげるから
お願い、待ってて。」
その声の主である女子生徒は
窓に手をつき、悲しげとも取れる声で
懇願するように妖を諭す。
その瞬間、
少し明るくなった妖はクルリと向きを変え
その子の言う森へと消えていった。
その様子を見届けると
ふう、と溜息をこぼす女子生徒は
視線を変え歩き出そうとするが
俺の存在に気づき
俺を見た瞬間、
「 あっ……な、夏目……先輩?」
その子は
悲鳴にも似た驚きの声をあげると
少し上擦りながら俺の名を確かめる。
「えっ、なんで俺を?」