第6章 ◆名取の札 (弐)
一瞬の出来事で、
それでも、何時間にも感じるその一瞬
僕は真っ赤な光が消えるのを
何も出来ずただ、その場で見届けた。
〝…な、なぐ…も…
…凪雲…。…凪雲っ!
…凪雲ーっ!!〟
光が消え辺りが赤黒く燃えている中
僕は頭の痛みも忘れ
よたつく足を凪雲がいた場所まで引き摺る。
〝凪雲っ!!〟
そこには凪雲の姿はなく
僕は辺りを見回す。
燃え盛る炎の中
燃えているのも諸共せず
僕は凪雲を探した。
何処だ、何処に行ったんだ!
逃げれたんだよなっ。
無事でいてくれ、お願いだ!凪雲!
思うように動かない足が焦れったく
ぶつけた頭で
前の視界がボヤけてよく見えない。
それでも、ひたすら凪雲を呼び掛け
探していると
「……………も…」
凪雲の声がした。
…いや、正確には気がしただけだ。
〝凪雲かっ?!〟
それでも僕は、
声のした方へ移動する。
すると、そこには
右腕を無くし
下半身と顔半分を黒くさせた凪雲が
ピクリとも動かず、横たわっていた。
〝凪雲!
しっかりして!
僕だよ、わかる!?〟
僕より少し小さい体をした凪雲。
僕は背中に腕を回し
凪雲の上体を少し起こした。
「…はっ、……も…。」
気を失っていたのか、
凪雲は、大きく口をあけ
辿々しく、何かを話す。
「り…くも…。
ここを、…守って…。
私、居なくても……お願い。」
〝凪雲…。〟
凪雲の言葉に
僕は肯定できなかった。
そんな、消える事を前提にした頼みなんて…!
「…ここには、
…李雲が、必…要な…の……。」
その言葉を最期に凪雲は動かなくなった。
嘘だろ…?
〝凪雲…?
ねぇ、凪雲…?〟
起こしてもピクリとも動かない凪雲の体は
徐々に薄くなっている。
〝消えちゃダメだっ…!〟
僕は耐えきれず、
凪雲を力いっぱい抱き締める。
消えないでくれっ!
そう願いながらも
僕は目から数本の筋が流れていく。
そして、
気付けば、僕の腕の中にいた凪雲は
消えて無くなっていた。