第6章 ◆名取の札 (弐)
「・・・女の子に暴力は頂けないな。」
その声の主は
何時の間にかと夏目の背後に回り
振り上げたままの夏目の右手拳を掴んでいた。
「…名取さん。」
帽子を目深に被り
ふぅ、と一息つく名取は
掴んだ夏目の拳をやんわりと下ろし
夏目に代わるように
さなの目の前に膝まづく。
「 夏目の過保護はドが過ぎるね。」
「・・・名取さん、
聞きたい事は山程ありますが
急を要するので要点だけ教えてください。
さなに何をさせるつもりですか?」
只でさえ、勝手にさなを連れ出した事に
怒りを含んでいる夏目は無理に冷静を繕った。
その夏目の質問に名取は
やれやれ、と降参の仕草を
背後の夏目に向けると
「この子には
依代になってもらうつもりだったが
駄目だったみたいだね。」
そう呟き
目の色を変えて先程から同じ言葉を
連呼し続けて動かないさなを横抱きにし
いつの間にかびっしりと描かれた陣へと
移動する。
「さなを依代…?
何故、そんな事を?!」
今にも飛び掛ってきそうな
怒りを顕にした夏目を横目に
名取はさなを陣の中央に座らせる。
「話は後だよ、夏目。
今はさなちゃんを戻す方が先決だ。」
名取の言葉に夏目は
ぐったりとするさなを見やり
怒りを抑えるように、はーっと息を吐くと
さなの後ろに膝まづいた。
「言っときますけど
さなを傷付けるなら
俺は名取さんを一生許しませんよ。
後で確り今回の事話して貰いますからね。」
そう夏目に睨まれると名取は
おー怖い怖い。そう呟きながら
片手を顔の前に立たせ
呪文を唱え始めた。
静かだった辺りの風を全て巻き込むように
陣の形に竜巻を形成させると
徐々に、さなが震えだし
苦しむ素振りを見せる。
「さな、
もう少し、耐えてくれ…!」
夏目はさなを
後ろから抱き締める形で押さえ続けた。