第6章 ◆名取の札 (弐)
「名取さんを探しに来たはいいものの…」
「 …戻ってきちゃいましたね。」
どんより、と表情を曇らす二人は
目の前の御厨神社へと力なく視線を向ける。
名取さんを探す。
と意気込んだ時より、数十分。
さなが名取と別れた所まで来たはいいが
その姿は無く
神社付近をしばらく散策したものの
気配すら無く、
途方に暮れ戻ってきたのだった。
「直接話すしかないか…。」
観念したかのように零す夏目に
さなも肯定の言葉を発しようとした
ーその時、
「 ・・・!
うっ…ぁ…。」
突然、頭の中に響く雑音にさなは顔を歪ませ
その場に膝から崩れ落ちた。
「 さなっ?! 」
さなが石段に直撃するのを防ぐ為
夏目が咄嗟にさなを受け止めると
肩を掴みその顔を覗き込んだ。
「 …に……しゅう…
………ない…
「さな?
どうしたんだ?」
朧げに遠くを見つめ
何かをボソボソと話すさなに
夏目は聞き取ろうと顔を近付ける。
「 名取ニ…復讐…
許サナイ…
凪雲ヲ返セ…。」
「……さなじゃないな。
李雲様か?」
明らかに他者の言葉を発しているさなに
夏目が問い質すが、会話としては成り立たず
さなは同じ言葉を繰り返すだけだった。
「夏目、無駄だ。
さなの中に完全に入っている訳ではないから
会話は出来んぞ。
だが、
入り損ねた割には妖気が強い。
李雲の近くに寄ると
さなの中に入った李雲の怨念が
共鳴するようだな。」
トテトテと近付くニャンコ先生が
ざっと説明をするのを聞き終えると
「近くに李雲様が居るということか。」
ー・・・それなら、荒療治だけど・・・。
夏目はさなを起こすべく
意を決して拳に力を入れた。
「さな…ごめん。」
そして、その拳を振り上げた
ーその瞬間
パシンッ!
「待ちなさい、夏目。」
無駄に聞き慣れた、
オーラを放つ声が背後から呼び掛けた。