第6章 ◆名取の札 (弐)
「 ハァ…ハァ…」
燦々と輝く太陽が
少しだけ西に傾きかけた頃、
昼間というのに何処か薄暗く
ひんやりとした森の中を
夏目はさなの手を取り
麓までの獣道を駆け下りていた。
「ここまで来れば…大丈夫、だろう
ハァハァ…。」
どれほど走ったかは人知れず、
二人の体力が限界に達し、
二人は自然と足を止めると
ゼェゼェと荒れている呼吸を落ち着かせながら
夏目はさなを近くの丸太の上に座らせ
さなの目の前に膝まづいた。
「さな、大丈夫?
怪我はないか?」
「 あ、いえ、お陰様で・・・全然。
その、ありがとうございます。
…それより、
どうして先輩がここに?」
「あぁ、
あの神社へと女の子が攫われた、と
妖が噂していたんだ。
話を聞いたら祓い屋と一緒だと言うから
まさかとは思ったけれど
案の定、学校に行けばさなの姿は無いし
ニャンコ先生に頼んで来てみれば
君が依代にされかけていてゾッとしたよ。
…間に合って良かった。」
夏目が囁くように語尾を濁らせると
目を細め、そっとさなの頬を
両手で包み込んだ。
「 あの…ごめんなさい、
心配かけてしまって…。」
至近距離にある夏目の顔から目を逸らせず
速まる鼓動をさなは
照れ隠しのように誤魔化す。
夏目が来てくれた事に
さなは喜びを隠せずそのまま俯く。
「謝らないでくれ。
…俺が悪かったんだ。
名取さんに絡むと碌な事が無いから、と
あの場で無理に逃げてしまった所為で、
さなをこんな目に遭わせてしまった。
ごめん、俺の所為だ。」
ふわりと優しい風が二人を包み込む中
夏目は申し訳なさそうにさなから離れた。
「 そんな・・・、
先輩こそ謝らないでください。
少し…、いや結構名取さんも強引ですが
協力したのは私の意思です。
それに、
名取さんは李雲様…さっきの妖を
祓うつもりのようですが、
李雲様は過去に名取さんが凪雲様を祓ったという
怨念が強くて、自ら邪気を放ってるみたいでした。
夏目先輩、
…一緒に救ってあげられませんか?」