第6章 ◆名取の札 (弐)
「 えっ・・・?」
低いトーンで発せられた
李雲様のその言葉にさなは
思わず息を呑む。
……ーどうしてそれを?
心の中で呟いたさなの言葉を
李雲様は見透かしたように
笑って言った。
〝君が気を失っている間に
少し調べさせてもらったよ。〟
そして、李雲様は
手に持っていた紙をさなに見せつける様
ヒラヒラさせた。
「 そ、それは…っ!」
〝この御札
…名取家が使用している札だよね?
名取の者が何をしに来たの。
巫女と偽って謀るつもりだった?〟
李雲様は手に持つ札を片手で握り潰すと
札は炎となって瞬時に燃え尽きる。
それと同時に李雲様から
微笑みの表情は一切消え、
少し俯くように顔を背けた。
「 李雲様、違います。
李雲様を祓うつもりは…
他の妖を祓うつもりで参ったのです!」
さなが懸命に誤解を解こうと呼び掛けるも
李雲様は聞く耳持たず、その時には
幼い男の子の面影も
怒りの形相へと変わり果てていた。
〝出鱈目を言うな。
ここには、
僕ひとりしか居ない…!〟
「 ……え?」
李雲様の言葉にさなが反応するも
李雲様は構う事無く続ける。
〝凪雲(なぐも)が居なくなってからというもの、
静かに暮らしているだけで
人間どもは神殿内を土足で踏み入っては
全てを荒らしていく。
挙げ句、怒った僕のことを邪険に扱い
悪霊だの言って祓おうなんて
理にかなう行動じゃないだろう。〟
……ー凪雲…?
さらりと出た言葉にさなは頭を捻る。
〝そうだ、
君には僕が見えるんだよね。
僕を騙した詫びとして
体を貸してくれる?
……名取に仕返ししないと。〟
ー・・・え。