第6章 ◆名取の札 (弐)
「 ……ん」
どれだけ意識を失っていただろう。
さなが目を覚ますと
真っ暗な中、畳のような上に寝そべっていた。
「 ここは・・・何処?」
……ー確か、
李雲様がお礼だと言っていたけれど…。
木造の匂いが鼻をつく。
何の気配も感じられないが、
このまま待っている訳にもいかない。
さなは立ち上がり、
袴についた埃を払うと
ふと目の前の襖を開け、隣部屋へと移る。
……ー外の明かりがある。
きっと、ここは神殿内よね?
李雲様はどこだろう。
部屋の中には縁側に繋がる窓枠の付いた襖があり
薄暗い森の中に無数に入る木漏れ日が
部屋の中を薄く照らしていた。
「 李雲様、何処にいらっしゃいますか。」
外観から察するに、
無数にあるであろう部屋を
ひとつひとつ開いて李雲様を探すには
明日までかかると判断したさなは
声を上げて、李雲様を探す。
……ーそれにしても、中は綺麗なのね。
今にも崩れそうな外観からは
想像できないほど畳も解れがなく、
時折鳴る、床の軋み以外は
ほとんど綺麗にされていた。
「 李雲様ーっ。」
さなは見たこともない
少し話しただけの李雲様へと懸命に呼びかける。
……ー私の目には見えないと仰っていた。
それなら、話しかけるしか…。
話し方や声は幼く聞こえたその李雲様は
例の妖が扮しているだけなのかもしれない。
何一つ明確にならない中、
たった数分、掃除をしただけで
礼という言葉が出ることに
さなは違和感を覚えていた。
……ー見知らぬ人間に礼だなんて…。
さなは頭の中に真意を巡らせながら
手当たり次第の襖を開けた。