第6章 ◆名取の札 (弐)
午前の授業が始まる前の10分程の時間。
朝一番の授業の準備で
ザワザワとする教室の扉を夏目が開く。
「 あのー、すみません。
望月さん居ますか?」
「 え?さなですか?」
そこは夏目の一学年下のクラス、
さなのクラスである。
夏目は昨日の今日でさなが心配になり
名取と絡む事を避ける為
放課後また送る事を言いに来たのだが、
「 さな、今日は休みですよ?」
「 はっ?休み?」
「 はい、朝から見てませんし・・・。」
夏目から声を掛けられ頬を染め答える女子生徒は
さなとよく一緒に居る実代という少女。
その少女からさなの不在を告げられ
夏目は目を丸くさせた。
ー・・・昨日の別れ際、
さなに不調があったとも思えない。
「 そ、そうか・・・ありがとう。」
〝また明日〟と別れたからには
さな自身も今日登校する予定だったのだ。
突発性の風邪か・・・もしくは・・・。
夏目は少しだけ嫌な予感を抱えて
実代に礼を言ってクラスを離れようとした。
「 夏目先輩!あの・・・」
夏目が背を向けた瞬間、
実代が声を上げて夏目を引き留める。
「 ん?
どうしたんだ?」
実代の言葉に夏目も振り返り
その赤く染めた表情を伺おうと
少しだけ顔を覗き込む。
「 さな、いつも欠席や遅刻をする時は
自分で学校に連絡するんです。
でも、今日は
その連絡が別の人だったみたいで
聞いた事の無い声だった、って
担任の先生が気にしてて・・・」
「 ・・・」
至極言い辛そうに俯く実代が話し
恐る恐る夏目を見上げる。
「 その、私も心配してて・・・」
そんな実代に夏目はふっと笑う。
「 ・・・教えてくれてありがとう。
俺も君と一緒でさなの事が心配なんだ。
今日、俺が様子を見てくるから
君は安心して。」
実代に対して微笑むと
夏目はゆっくりとその場を後にした。
「 ずるいなぁ・・・、さな。」
夏目を見届ける実代が
そんな言葉を零しているに
夏目は知る由もなかった。
ー・・・さな、今行く。