第6章 ◆名取の札 (弐)
「 うん、結構片付いた!」
さなが掃除を始め20分程経った頃
一息ついて辺りを見渡し
なんとか参道が見えるようになった事に
さなは思わず頬が緩む。
そして、
さなの気が緩んだ時だった。
〝君は、誰?〟
「 えっ?」
昼間でも薄暗い森の中は
街の音をかき消し
時々、木々がしなる音だけを通しているような
静寂な中、何処からともなく
頭の中に直接感じられた声に
さなは辺りを見渡す。
〝僕は君の目には映らないよ。
君は巫女さんなの?
僕の為にここを掃除してくれているの?〟
姿が見えず、頭の中に直接話し掛けられる事に
さなは違和感を覚えながらも
冷静を保ちながら頭の中に響く声に集中した。
「 はい、私はさなと申します。
李雲様に仕えたく、奉仕させて頂いております。
失礼ではございますが、貴方は…?」
〝僕は李雲、御厨の主だよ。〟
……ー李雲…様?
頭の中に響く声だけでは
まだ幼い容姿に思える話し方に
さなは戸惑いを隠せない。
……ーあまり毒気を感じないけれど
例の妖が李雲様の振りをしているのかな?
そう悩む暇もなく続け様に妖の声が頭の中に響く。
〝巫女さん、ありがとう。
ここを綺麗にしてくれているお礼に
神社の中に通してあげるよ。〟
「 ーっ?!」
その瞬間
さなは背後に重苦しい気配を感じ
真っ暗な妖気が侵食していく感覚に陥ると
その場に膝から崩れ落ちながら、意識を手放した。