第6章 ◆名取の札 (弐)
「 あの、名取さん?
私が巫女になって近付く程度では
妖の警戒が解けるとは思えないのですが…。」
さなは名取から手渡された札を
見つめながら、ふと頭に過った疑問を
そのまま名取へ投げ掛けた。
「人間界における普通の見解はそうだね。
しかし、妖というのは人間のように
皆が同じ体ではないんだ。
式に調べさせたところ、
今回の妖は 目が悪い と聞いた。
悪いとだけで 無い とは聞いていないが…。
そこに
李雲様と勘違いし、妖に仕えようと来た
目の良い巫女が現れたら
これを利用しない訳には行かない。
言葉を発する妖ならば、
そこまでは考えられる筈だ。
そこで、
君が利用されながら隙を見て
札を貼りさえすれば
後の処理は私がしておくから
万事休す。って訳だよ。」
名取はそう言い終えると
ニッコリと表情を作り
今日はもう遅いから、と予約した宿まで
車を走らせた。
「さなちゃん、君は噂で聞いた通り
君が妖との関わりを拒絶していた
というのは本当らしいね。」
真夜中の暗闇を割くように
ヘッドライトを照らし
来た道を静かに戻る最中の車内。
先に口を開いたのは名取だった。
……ー夏目先輩以外には話してないのに
なんで知ってるんだろう。
さなは初対面の筈の名取から
自分の過去を話される事に抵抗も忘れ
名取の話す内容を静かに聞いた。
「いいかい?
妖にとって人間(ひと)の常識とは
酷く稀な物なんだよ。
この事を覚えておかないと
君がこの先傷ついていく事になる。
…幾ら、夏目が居ようともね?」
「 はぁ・・・。」
名取が加えると丁度宿に到着した。
さなは気のない返事をしながら
思い足取りで宿に入る。
そして、別々の部屋へ入ると
お互い朝が来るのを待った。