第6章 ◆名取の札 (弐)
…ーバサッバサッ。
「 ハァ・・・。」
さなは白い薄手の着物に
赤い袴を身に纏い、
髪を後ろに一つ束ねた装いで
手に持った箒で地面に散らばる
落ち葉と木の破片を大きく掃くと
手を止め、一つのため息を吐いた。
…ーどうして私がこんな事に…。
事の発端は、昨日の晩である。
さなは名取に仕事の手伝いを頼まれ
有無を言わさずそのまま名取の車に乗せられると
10キロほど離れた山奥にある
無人の神社へ連れてこられた。
「…御厨(みくりや)神社。
ここで、君には巫女に扮してもらう。」
「 へっ?」
神社の前に車を停め外に出ると
薄く書かれている文字を名取が読み上げ
続け様にさなへの仕事をさらっと言うと
巫女に必要な衣装と説明書を
車の後部座席から取り出し
さなに手渡した。
「 ちょ、ちょっと待って下さい!
み、巫女?・・・って、私がですか?」
あまりにも聞き慣れない巫女と云う言葉と
手渡された物にさなは声を上擦らす。
その姿に名取が微笑み
さなから離れ鳥居の前まで進むと
依頼内容を淡々と話し始めた。
「此処には、李雲(りくも)様という
山の神様が祀られて居るそうだが
20年ほど前に姿を消したと言われ
それから無人の神社、もぬけの殻になっている。
…しかし、
1ヶ月前から、少しずつ妖の気配が出始め
徐々に声も漏れ始めてきた。
その声は段々と言葉になり、
誰かを呼ぶ声だと分かったのが数日前。」
「 声…。」
さなは夜中の静寂に包まれながら
名取の話す内容を然りと聞き入った。
「あぁ、
しかしその声には毒気があって
聞き取ろうと近くに寄ると
邪気に当てられて、中々聞こえないんだ。
どうも、怨念が強いみたいでね。
このまま放置しておくと
妖が暴走する危険性がある。
そこで、君には巫女になって
妖の警戒を解き、中にある榊に
私の封印の札を貼って来て欲しい。」
名取が言い終えると
ジャケットの中から一枚の御札を
さなに手渡した。
「 これが、お札…。」