第5章 ◆名取の札
夏目と別れ
すぐ目の前にある我が家までの帰路に着いた頃
先程までは無かった気配がひやりと
さなを包んだ。
……ーなんだろう。
また、友人帳の妖かな?
さなは足を止め
その場で気配を辿り辺りを見渡すが
妖の姿は無く、
ただ藪の木々が揺れているだけだった。
さなは首を傾げ
何も無いことを確認すると、
また家路に足を踏み出す。
……ー気のせい、かな。
そして特に気にも止めず
家の前までたどり着き
門扉のノブに手をかけた。
ーその瞬間、
「 ・・・っ?!」
背後から伸びてきた手に口を塞がれ
片方の腕を掴まれていた。
「・・・漸く1人になったね。」
消え入るような声でさなの耳元で囁く
その声の主は
……ー名取…さん…?
「悪いが、少し付き合ってくれるかな?
…と言っても、
君に拒否権は無いんだけどね。」
「 んぅッ・・・!」
物理的にその表情を窺う事は出来ないが
恐らく、あのニッコリと笑う表情を
浮かべているであろうその物言いに
さなは恐怖からその場に立ち尽くす。
名取はそんなさなを見て微笑むと
さなに負担が掛からない程度を気遣い
ゆっくりとその華奢な体を持ち上げ
体制を崩さずそのまま近くの藪の中へと
さなを連れ去っていった。
……一体、なんなの…?