第5章 ◆名取の札
夜の暗闇が包み込む中
さなは名取に抱きかかえられながら
無抵抗に藪の中を進んでいた。
無抵抗とは言っても
ここで抵抗すれば
被害が及ぶのは目に見えている。
それに、名取の気遣いは体を通して
さなにも少しばかり伝わっていた。
「ふぅ、此処なら大丈夫だろう。」
藪の中に入り数分進んだ頃
少しだけ開けた場所に出ると
名取は近くにある低めの切り株に
さなを丁寧に座らせた。
「 誘拐染みた事をして悪かったね。
夏目のような保護者が居たんじゃ
話も出来ないと思って、
後を着けさせてもらったよ。」
「 ・・・、どうして私を?」
軽く詫びる名取に対して
さなは警戒心を解く事は無く
名取を見上げると、
夕方に会った時と同じ表情でさなを見据えた。
「さっきも言った通り、
君に手伝って欲しい仕事があるんだ。」
名取は話しながらも表情は崩さず
真剣な眼差しに変わると
さなは目を逸らさず冷静に聞いた。
「 仕事とは、一体何でしょうか?
私にしか出来ない事なんですか?」
その言葉に名取が更に微笑むと
「あぁ、そうだよ。
君は察しがいいね。
君のような、妖が見えて妖力の強い
〝髪の長い女の子〟
…でないといけないんだ。
本当は夏目に女装してもらうつもりだったけど
そういった分野は彼は嫌がりそうだからね。
君のような子を見つけられて助かっている。
・・・君にしか頼めない。」