第18章 ◆柴田ノ恋
カツカツ、と2つの足音が鳴り響く。
真っ暗な洞窟に入ってから
そう時間はたっておらずとも
暗闇の中のこの異様な雰囲気と
外の音も光も全て遮断したこの空間は
季節外れの肌寒さを感じる。
「なぁ、夏目。」
この雰囲気に耐えかねて
柴田は夏目へと視線を向けた。
「なんだ?」
夏目は慣れているのか
柴田から見る夏目は至極冷静で
視線を柴田へ外すこと無く
しっかりと前を向いて返事をした。
「この件が終わったら、さ
今度こそちゃんと遊ぼうぜ。」
柴田の言葉は
まるで解決するのを祈るかのような
そんな提案だった。
普通の高校生なら、日常を生活していて
こんな恐怖なんて感じることは無いだろう。
そして、
柴田もその普通の高校生の中に
つい最近まで居たのだ。
今まで知らなかった恐怖を
夏目を通して知り、
その夏目の今までの経験を知ることで
どうしても夏目を普通の楽しい生活へと
招きたかった。
ー・・・せめて、俺と居る時だけでも。
夏目の憩いを作ってあげられたら。
と、そう感じていたのだ。
柴田の少し小さくなった声に
夏目はやっと柴田の方へ視線を置いた。
「あぁ、そうだな。」
とても短く。
でも柴田の提案を約束にして
それを待ち遠しい限りに
楽しみにしている声色で。
暗闇のせいで
しっかりと表情は見えないものの、
柴田は夏目の言葉に何処か安心して
満足できた。
「さなも待っている事だし、」
「あぁ、さっさと片付けようぜ、夏目。」
ニッとはにかむ柴田に
夏目も笑顔で同意した。・・・瞬間、
ーーガツンッ!
「うわっ」
「いって!」
見えない何かへ
頭から盛大にぶつかり
二人ともその場へ尻餅をついた。
「っ、な、なんだ・・・?」
ぶつけた頭を擦りながら
目を細めて目の前を確認する夏目。
しかし、
どれだけ目を凝らせても
先程の暗闇のが広がるばかり。
「何も無い・・・?」
何かにぶつかったはずだが、
その何かがある場所の光景は変わらず真っ暗だ。