第18章 ◆柴田ノ恋
夏目と柴田が勢いよく駆け出して
先程下った山道を駆け上がっていく。
その姿が見えなくなるのはすぐだった。
「 ・・・はぁ。」
姿が見えないとこんなにも不安になる
そこまであの二人を信用しきっていたさなは
一人では何も解決できなかった腑甲斐無さに
ひっそり憤りを感じ溜息をこぼした。
その時、
「 ・・・やっと行ったか。」
ぼそっと聞こえる低い声。
しかも、かなり近距離だ。
「 だ、誰っ?」
その声に即座に反応するように
腕の中の亀妖を抱き締める手に力が入る。
当たりを見渡すも何も居ない。
すると、
「 く、苦しい!離せ小娘っ!」
先程聞こえた声の主、と思われる
先程より少し間抜けな声色をさなに向けた。
その声にさなは、まさか、と
腕の中へ視線を落とせば
そこには
先程まで震えきって気を失った亀妖が
腕から抜け出そうと藻掻いていた。
「 え、か、亀さん・・・?」
さなは驚いて
力強く亀妖を抱いていた腕の力を緩めれば
すぽんっと飛ぶように離れる亀妖。
「 ふぅ、やっと抜けれたぜ。
ありがとよ、小娘。」
震えていたのがまるで嘘のように
ケロッとしている亀妖。
その言葉は軽く
片手を挙げて何処かへ行こうとクルリと
体を反転させてさなに背を向けた。
しかし、
それを放っておかれる訳もなく。
「 待って!どうして?
さっきのは嘘だったの?」
さなが声を大きく上げるものだから
亀妖も思わず再度振り返った。
「 あぁ、そうだ。
俺にとっちゃあの山を降りるのは少々困難でな。
小娘、お前を待ってたんだ。」
「 待ってた、って・・・どういう事?」
質問が多いさなに
亀妖ははぁ、とため息を着いた。
仕方ない、降りてもらった礼に
そう言って亀妖は話を続ける為、
ころん、とその場に座り込んだ。