第18章 ◆柴田ノ恋
「でも、柴田・・・」
「反対するような文句は聞かないぞ。
俺だって怖いの我慢して言ってるんだ。」
不安そうな夏目の表情を見て
少し眉を下げて柴田は言う。
夏目やさなにとっては
慣れている妖かもしれない。
しかし、
柴田には見たことも無い世界の
まだまだ免疫もない事なのだ。
そこへ自ら飛び込むという事は
相当な心構えが必要になる。
それを“友人の為”で作れる柴田を前に
夏目は思わず言葉を呑み込んだ。
“先に帰っていてくれ“
西村達にはいつもそう言って
妖の事から離れさせていた夏目にとって
柴田の言葉は
不安と安心とが入り交じったような
ちょっと小っ恥ずかしい気持ちで溢れた。
「柴田、途中では逃げられないぞ?」
「なんだよそれ、俺がいつ逃げ出したんだよ。
そんな事するかっての。」
真剣なようでいつもの調子で囁く夏目に
文句付きで答える柴田は
ちらりと横へ視線を落とした。
ー・・・さなちゃんの前では、な。
さなを見つめて心の中で言えば
「・・・?」
首を傾げる目の前のさな。
そして、柴田は続ける。
「それじゃ、
さなちゃんはここで待っててくれないか。」
「えっ」
「そうだな、
その亀妖も居る事だし」
「で、でも・・・っ」
夏目と柴田の掛け合いにその場に立ち上がるさなを
夏目がその両肩に手を置き
そっとまた座らせた。
そして、さなの目線まで屈み
「さな、
何よりさな自身が危ないからだよ。
だからここで、俺達が戻ってくるのを
待っていて欲しいんだ。」
優しく言った。
「さなちゃんが待ってくれてる
って思えば、何でも来いだしな。」
へらっと笑って続ける柴田に、
不安そうに見上げるさなの視線が
ゆっくり落ちた。
そして、
「絶対に、・・・帰ってきてくださいね?」
柔らかい瞳に変えて
二人を再度見上げて力強く言い放った。
「あぁ。」
「もちろん。」
二人は確り頷き合ってさなへと背中を向けた。