第1章 ◆少女の名
何を言い出したかと思えば…。
ニャンコ先生の言う〝レイコ〟とは
既に亡くなっている俺の祖母
〝夏目レイコ〟のことだ。
若くして亡くなった、と聞いているが
若き時代のレイコさんを
妖を通して知らされる事は稀じゃない。
「酔ってるのか?先生。祖母はとっくに…」
「いや、レイコの気配だ。間違いはない。」
俺の発言にも食い気味で言い切るニャンコ先生は
酒臭さを感じさせないほど真剣だった。
「夏目、おそらく学校で会えるぞ。
今日は私もお前の高校とやらに連れていけ。」
………はぁ、、?
全く持って理解ができない。
「どういう事だか、ちゃんと説明をしてくれ。」
寝起きということもあり、頭が回らない俺は
ニャンコ先生に説明を求める。
そんな俺に、ニャンコ先生は
はぁと大きなため息をつきながら
座布団に舞い降りると話を続けた。
「お前は家族の気配も分からんのか、全く。
…まぁいい。
昨日は西の沼山で飲んでいたのだが、
少々、変な噂を聞いてな。」
「…噂?」
「夏目レイコを見た、という妖が数名居て
話を聞くと
髪が長くセーラー服を着ていて
友人帳の名を返していたというのだ。
・・・夏目、お前では無いのだろう?」
「 え、」
・・・友人帳の名を返していた…?
確かに、最近は友人帳の名が減ったこともあって
妖の事情に巻き込まれたり
祓い屋の手伝いが多かった為
名前の返還はめっきり無くなっていた。
ー・・・でも、名の返還なんて
俺にしか出来ないはず。
しかし思い当たる節は、一切無い。
そんな
開いた口が塞がらない状態の俺を他所目に
ニャンコ先生が毛繕いを始めながら更に続ける。
「私も少々ばかりだが気になって
目撃されたという場所に出向いてみたら、
確りレイコの気配が残っていたさ。
それで、だ。
セーラー服ということは
お前の通っている高校の制服とやらだろう。
だとしたら、
今日にでも高校に来るのではないか。」
そう諭すニャンコ先生に、
段々と目覚めてきた俺は
頷くことしか出来なかった。