第18章 ◆柴田ノ恋
目に映る光景から瞬きすら忘れてしまう。
サッと現れた影は
亀妖を包んでそのまま地面へ降りた。
逆光で真っ黒な影だったそれは
地面に降りた事で色彩を戻す。
「 夏目、先輩・・・!」
ー・・・どうして、いつもこうやって。
助けて欲しい、
自分ではどうしようも出来ない時に
来てくれるのだろうか。
その姿を見ていつも
泣きたくなるくらいに安堵してしまう。
思わず、笑みが零れる中
「 さなちゃん!」
大きく呼ばれたその声で
さなは現実に引き戻される。
そういえば、
風に飛ばされたのは亀妖だけではない。
さな自身も突風によって亀妖とは別方向へ
飛ばされてしまい、
斜面を下っているのだった。
まずい、下手をすれば着地によって
大怪我を負ってしまう。
なんとか受身を取らなければ。
そう身構えた瞬間ー
ガシッ!
背中と膝裏に来る衝撃に
さなは思わず目を閉じる。
その衝撃は強いけれども温かくて
恐る恐るさなが目を開けると
見覚えのある整った今どきの顔が映った。
「 大丈夫か?さなちゃん。」
「 し、ばたさん・・・?」
至近距離に来る柴田の顔は
あんな出会い方をしたにも関わらず
端整な顔立ちに思わず見蕩れて
さなは少し照れ臭くなって
俯いて頷いた。
「 ありがとうございます・・・。」
俯いた視線をゆっくり上げながら
礼を零せば、目の前の柴田も
何故か赤くなり無言になってしまった。
「 柴田さん?」
何も言わず顔を背ける柴田にさなが名を呼べば
「 それは、反則だ・・・。」
「 へ?」
ボソリと呟いてる柴田に
さなは更に首を傾げた。
「 おい、もういいだろ。」
むず痒い空気の中
近くに降りてきた夏目が
そっと声を掛けた。
「 ああ、悪い。」
一体何が悪いのか、
柴田はまだ揺れる地面に
ゆっくりとさなを下ろすと
頭をかいた。